プロフィール

大蔦茂樹
(SHIGEKI OOTSUTA)

1954年3月3日岩手県宮古市生まれ。
岩手県立宮古高等学校卒業。
国立音楽大学教育音楽Ⅱ類卒業。現在盛岡市在住。
国立音楽大学にてピアノを和久利幹子氏、声楽を吉沢哲夫氏に師事。
卒業後、高校教諭を勤めながら作曲活動を行なう。
盛岡第一高等学校音楽部を率いて全日本合唱コンクールAクラスで銅賞。
自身の演奏会を岩手県公会堂で2回開催。
現在、作曲を安田芙充央氏に師事。声楽をアトリエムジカC主宰山中信氏に師事。
2016年、ファーストアルバム「大蔦茂樹作品集VOL1~HOMAGE~」にてピアノ曲や室内楽曲を発表。
ロマンティシズムに満ちた耽美的な作風は燻し銀の輝きを放っている。

ーはじめにー

 この曲集は、さまざまな芸術、たとえば、歌劇、歌曲、絵画、映画、文学、色調や作曲家、などからインスパイアされたものを、あらためて追体験し、その感動を自分なりの手法で独自の再構築を試みた、ひとえに、オマージュとしての性格を持つものである。

ー曲についてー

1. エフゲニー・オネーギン抒情
チャイコフスキーのこの作品はオペラというよりもっと室内楽的な音楽のドラマと呼ぶに相応しい。
リリックなドラマとして。そう感じるのは音楽は勿論のこと、温かさと悲痛が混ざったようなロシア語の響きのせいかも知れない。かじかんだ手を温める息のようなピアノ曲を主人公タチアーナへのオマージュにしたいと、願った。

2. 散歩に寄せて
散歩とはマルク・シャガールの代表的な絵である。魔笛のパパゲーノとパパゲーナを思い起こさせる程にまさに欣喜雀躍の絵だ。
だがこの絵を見たときにふと胸をよぎる一抹の不安は何か?この二人の笑顔は実は仮面で仮面の下には虚無と悲哀のブラックホールが広がっているのではないか?楽しく踊る二人の伴奏音楽を試みた。

3. マティーニをください
宵の口、少しめかし込んで立ち寄るホテルのバー。レモンピールの香りを嗅いでオリーブを齧る。そしてあの薄緑の液体を喉に流し込む。
至福の瞬間。まさに、音と香りは夕暮れの大気に漂う、である。バーは茶室でバーテンダーは茶の宗匠。美しい振舞ともてなしの心。
そして一輪の花に感謝を込めて控え目の音楽を一節小耳に。

4. トリオ・ソナタ風に
トリオ・ソナタとは2つの旋律楽器と通奏低音というバロック時代特有の音楽形式だ。コレッリが有名だがその高雅な音楽は同時代の人をして、ヴァイオリンの大天使と言わしめ、パルナッスス山に鎮座まします、とや。そのような由来も持つ音楽形式の名を騙るなど、結局は罰当たりであった。
今後のリニューアルに乞うご期待!

5. リディキュール追想
フランス革命の数年前。ある田舎貴族が領地にある大きな沼地から大量の蚊が発生し領民が熱病で死んでゆく状況を深く憂い、沼地の干拓をルイ16世に直訴しようとヴェルサイユに赴きアレクサンドランという豪奢な詩形で即興の詩を詠みその才能により謁見叶い目的を果たすというパトリス・ルコントの映画その追想をチェロで。

6. もうひとつの愛の小径
愛の小径といえばプーランク。軽妙なシャンソンのようでありながら、凛とした歌曲の佇まいもあり不思議な魅力がある。
この小径は海へと続く小径であり彼らが通り過ぎたその後には恋占いのためにちぎった花びらが散っていたとある。
恋人の島シテール島へ船出する想像が広がり、他にあるかも知れぬ愛の小径をヴァイオリンで。

7. ぜんまい仕掛けの鳥の歌
ひとつはクレマン・ジャヌカンの島の歌。中間部のカッコーの鳴き真似を段々コキュと囃し立てていく。コキュとは言わずもがな。
うち続く戦乱の世では人ごとではなかったろう。熱にうかれた喧噪と猥雑。もうひとつはアンデルセンのナイチンゲール。
中国皇帝に日本の天皇が贈った細工物の夜鶯。2羽の歌声をヴァイオリンで。

8. ヘンデル礼讃
ヘンデルは前述のコレッリに怒られたことがある。コレッリは最高音域を乱用しないようにと常々戒めていたがヘンデルはそれを守らなかったからだ。愉快な話でヘンデルの面目躍如だ。曲の着想はボッティチェリが描くヴィーナス誕生から得た。海の煌きや波の泡立つ様はピアノが表し、ヴィーナスのテーマはチェロが奏でる。

9. ピアノのための二つの小品より
Iセピア:音と色は私たちの心の中で呼応し合っている。ジョルジュ・サンドはショパンの青い音という美しい文を残している。
さてセピアといったら現実には既に無い失われた時であり、人や物である。そしてそれらは深い忘却の彼方より私に語りかけてくるのだ。
ときには温かく、ときには甘く切なく、ときには痛みを伴って。

10.ピアノのための二つの小品より
II モスグリーン:この曲名の曖昧さを言葉で説明するのは難しい。言葉では~のようなものという説明が関の山だ。音楽は感知されて言葉は理解されねば。
感知のよすがとして苦し紛れの説明を。ーモスグリーンのナイーブだが詩的な華やかさは夜会の盛装のうしろ姿にも似て思わず手を差し伸べ触れたくなるような慕わしさがあるー

プログラム

1. エフゲニー・オネーギン抒情(タチアーナへのオマージュ)
2. 散歩に寄せて(シャガールへのオマージュ)
3. マティーニをください
4. トリオ・ソナタ風に
5. リディキュール追想(パトリス・ルコントへのオマージュ)
6. もうひとつの愛の小径(プーランクへのオマージュ)
7. ゼンマイ仕掛けの鳥の歌(ジャヌカンとアンデルセンへのオマージュ)
8. ヘンデル礼讃
9. ピアノのための二つの小品
  I セピア
10.ピアノのための二つの小品
 II モスグリーン